こんにちは、ヤス@ロコ父さんです。
「愚者は経験に学ぶが、賢者は歴史に学ぶ」と言われます。
ここで「リストラの歴史」を振り返ってみて、賢者に見習って歴史に学んでみたいと思います。
早期退職したのを機に「構造不況」って何だろうと思う
1970年代の終盤で私が中学3年生の頃ですが、今は亡き父親が50歳のときに脱サラして自営業を始めました。
当時父親は「少し割り増しの付いた退職金を元手に、先祖から引き継いだ国道沿いの土地(当時は田畑)を使って自営業をやる」と言っていました。
(幸運にもそれから40年経った今でも長兄が後を継いで何とか生き残っています)
「割り増しの付いた退職金って何だろう?」
中学生の私には事情がよく呑み込めませんでした。
その頃は「リストラ」「早期退職」なんて言葉はありませんでした。
その代わりに「構造不況」「合理化」という言葉をよく耳にしました。
そこで、構造不況とは何なのか調べてみました。
構造不況
「不況の原因が景気循環による一時的なものでなく、産業構造や需要構造などが経済環境の変化に立ち遅れることから生ずる不況」
(出典元:三省堂 / 大辞林 第三版)
なるほど、
私が直近8年間に所属していた事業部がまさにエレクトロニクス業界で、やはり構造不況業種だったと再認識しました。
そう言えば、私が就職する1990年代は日本のエレクトロニクス製品は性能も品質も圧倒的に良かったです。家電分野で言うと、テレビやビデオは欧米メーカーから市場シェアを奪ったり、DVDのような新技術を開発して製品化したりと右肩上がりの急成長の時代でした。
しかし2000年代になって、プロダクト(例えばテレビやビデオ)のコモディティ化が急速に進行し日本メーカーの技術的優位性は失われて行きました。韓国・台湾・中国でも同じ部品やASSYを買ってきて組み立てれば、同じ機能・性能のものが安い人件費で作れてしまう時代になりました。品質は少し劣っても価格差がそれ以上なので、今度は逆に日本勢が市場シェアを奪われて行きました。
それで2000年代以降、日本のエレクトロニクス業界では盛んにリストラが行われました。
私が20年間在籍した会社でも直近の15年間で従業員の約1/3(延べ1万人以上)がリストラで会社を辞めて行きました。
不採算事業から撤退することで会社倒産を回避して存続出来ている点は、全体最適の視点で見れば大事なポイントではありますが。
構造不況と政策の歴史を学ぶ
そう言えば父親も
「化学繊維業界は構造不況だから定年までこのまま会社員をやっても面白くない」
「だから会社を辞めて自営業を始める」
と言っていました。
(う~ん、親子共々、構造不況で会社を辞めることになるとは..)
そこで「構造不況の歴史」に少し興味が湧いたので調べてみました。
すると近代の産業政策史が少し見えてきました。
古い順から以下4つの施策・政策を簡単にご紹介します。
■特定不況産業安定臨時措置法(1978~83年)
- オイルショック後の低成長の中で構造的な不況からの克服を目的
- エネルギー価格の高騰により特定の業界が国際的な価格競争力を失ったことが原因
- 主な対象業界:化学繊維、造船、アルミ精錬、など14業種
- 受給の大幅な不均衡を是正するために過剰な設備と人員の合理化、業界再編、優遇税制
※これ以前にも石炭や繊維業界を対象とする産業調整援助法はあった
■特定産業構造改善臨時措置法(1983~88年)
- オイルショック後の低成長の中で構造的な不況からの克服を目的
- エネルギー価格の高騰により特定の業界が国際的な価格競争力を失ったことが原因
- 主な対象業界:化学繊維、石油化学、電炉、セメントなど26業種
- 受給の大幅な不均衡を是正するために過剰な設備と人員の合理化、業界再編、優遇税制
■産業構造転換円滑化臨時措置法(1987~96年)
- 対象が業界から個別企業・特定の地域に変化
- 主な対象:製鉄会社の高炉設備、紡糸設備など23種の設備
- 受給の大幅な不均衡を是正する目的
- 過剰な設備と人員の合理化、業界再編、優遇税制
- 例:新日本製鉄遊休地を北九州スペースワールドというテーマパーク事業に利用
■特定事業者の事業革新の円滑化に関する臨時措置法(1995年~)
- 前の法律からは少し趣旨が異なり、対象が個別企業のみとなる
- 新商品、新生産方式、新販売方式など新規事業や新規設備への転換を狙う
- 受給の大幅な不均衡を是正する目的
- 業界再編、税制優遇
特に前2つの「xxx臨時措置法」のポイント:
- オイルショックによりエネルギーコストが増大
- それまで世界市場で高いシェアを誇ってきた主に素材産業のプロダクツが国際的な価格競争力を失った
- 以前の様にはモノが売れなくなったために、設備や人員が過剰となった
- この構造不況を克服するために産官一体となり合理化を推進
- 企業の合併による拠点の統廃合、設備の集約、人員の配置転換なども進んだ
昭和40年代から盛んに行われた合理化は、今どきのリストラと同じである事がわかりました。
(違うのは産官一体で取り組んだという点)
2010年代の構造不況業種とは
近年の経営不振やリストラのニュースを見てみると、昭和の後期とは業界・業種こそ異なれど「構造不況」は存在し続けている事がわかります。
- デパート業界
ネット通販へのシフト、郊外型ショッピングモールへのシフト、インバウンド特需頼み
- アパレル業界
消費者の価値観の変化、ユニクロでいいや、ネット通販へのシフト、スーツの着用率の低下
- 新聞業界
消費者の価値観の変化(新聞を買わない、読まない、ネットで十分)
- カメラ業界
スマホの普及によるコンパクトデジカメの需要激減
- 銀行業界
超低金利による従来モデルの崩壊、キャッシュレス決済の普及による店舗やATMの価値低下
つまり40年以上前から今に至るまで、構造不況とリストラは業種・業界を変えながらも繰り返されています。
※もっと以前から構造不況は存在していたとみるべきで、例えばフォードが自動車を開発し普及させたことにより、馬車や馬自体の需要が激減し、馬車作り職人や馬の飼育人が大量失業したであろうことは想像に難くありません
しかし今では「構造不況」「合理化」という言葉を使わなくなりました。これらの言葉は、戦後日本の高度経済成長が終わる頃に使われた「いかにも昭和な響きの言葉」「どこか古臭い言葉」なのかも知れません。
2020年代の構造不況業種とは
どうも「構造不況」というものは姿や形を変えて存在し続けている様です。
特徴的なポイントは、
- 構造不況に陥る10年~20年前は絶好調であった
- 絶好調の時代には優秀な人材が集まってきた
- 構造不況業種になると設備も人も過剰になりリストラが行われる
ということは、
- 構造不況業種であっても、その危機を乗り越えて生き残った企業はある(造船、化学繊維など)
- それらの企業はリソースが集約&再編されており、意外と強く長続きしている
- これまでの20年間で好調だった業界は20年後には構造不況業種になっているかも知れない
このように考えることもできます。
これから10年以上現役で働く世代の方々にとっては、近い将来の構造不況業種を予想することは重要です。
申し上げてておきますが、構造不況業種の会社の全てがタメと言っているのでは決してありません。
いまの造船業・化学繊維業などを見ても「昭和の時代の構造不況を乗り越えて生き残った企業は、強くて長生きしている」ことは歴史が証明しています。
逆に30年前には生涯安泰と言われた大手銀行の社員ですら既にリストラの荒波に揉まれて跡形もありません。
そんな歴史に鑑みると、私個人としては、
「自分が属している業種」「自分が属している会社」
という視点ではなくて、
「構造的な産業構造や需要の変化があっても、その影響を受けにくい仕事内容とスキルが大事」
と思う次第です。
何かのご参考になれば幸いです。
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